大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成12年(ワ)18001号 判決 2000年11月28日

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

【A】

右訴訟代理人弁護士

小野寺富男

被告

【B】

右訴訟代理人弁護士

井上励

主文

一  被告は、東京都豊島区<以下略>「TANTANたぬき」において、別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。

1  カラオケ装置を操作し、若しくは、客に操作させて、伴奏音楽を再生(演奏)すること

2  カラオケ装置を操作し、若しくは、客に操作させて、伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させること

二  被告は、別紙物件目録記載のカラオケ装置機器を撤去せよ。

三  被告は、原告に対し、金二六九万五二二〇円及びこれに対する平成一二年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告の権利等

(一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づく許可を受けた我国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめレコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。そして、別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物は、原告が信託的譲渡を受けて著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。

(二) 被告は、平成元年四月ころ、飲食店「TANTANたぬき」(以下、「本件店舗」という。)を開店した。

2  被告の行為(カラオケの使用状況等)

(一) 本件店舗には、別紙物件目録記載の通信カラオケ関連機器一式、すなわち、オートチェンジャー、ミキシングアンプ、プレーヤー、マイクレシーバー、モニターテレビ、マイク、スピーカー、コントローラー等(以下「本件カラオケ関連機器」という。)が設置されている。

(二) そして、本件店舗では従業員らが来店した客に飲食を提供するとともに本件カラオケ関連機器を操作して、管理著作物を再生し、また、伴奏音楽に合わせて客に歌唱させている。

3  被告による著作権侵害

(一) 本件店舗のように客がカラオケ関連機器を使って歌唱する場合についても、当該音楽著作物の利用主体は、その経営者であるから、本件店舗における管理著作物の再生(演奏)及び客の歌唱については、被告がその主体であり、本件店舗に来店する個々の客は被告にとって不特定の者であるから、被告は公衆に直接聞かせることを目的として、管理著作物を利用していることになる。したがって、原告の許諾を受けることなく、カラオケ関連機器を使用した本件店舗における管理著作物の再生(演奏)・歌唱は、著作権の支分権のひとつである演奏権を侵害する(著作権法第二二条)。

(二) (1) カラオケ装置による適法録音物の再生(演奏)は、「営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるもの」、すなわち、著作権法施行令附則第三条各号に該当するものを除き、当分の間自由に行いうるとされていたが(著作権法附則第一四条)、同附則第一四条の撤廃を含む著作権法改正が行われ、平成一二年一月一日より施行されているのであるから、平成一二年一月一日以降の営利を目的とした音楽著作物の使用についてはすべて著作権法の適用がある。

(2) 被告は、本件店舗において飲食物を提供しているから、その営業は、著作権法施行令附則第三条一号にいう「喫茶店その他客に飲食をさせる営業」に該当する。そして、本件店舗に備え付けられた本件カラオケ関連機器は業務用の高性能のカラオケ装置であるから、著作権法施行令附則第三条一号にいう「客に音楽の鑑賞をさせるための特別の施設を設けているもの」に該当する。また、被告は、本件店舗がカラオケ利用の営業であることを標榜しているから、「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し」ている者に該当する。

したがって、右附則第一四条が撤廃される以前についても本件店舗の営業は、著作権法施行令附則第三条一号所定の事業に該当するから、著作権法附則第一四条の適用はない。

(三) 以上のとおり、被告は、本件店舗において、開店以来、原告の許諾を得ることなく、本件カラオケ関連機器を使って、公に、管理著作物を再生(演奏)し、また、客に歌唱させて、原告の著作権(演奏権)を継続的に侵害してきた。

4  カラオケ機器等の撤去等請求

原告は、被告に対し、著作権法第一一二条一項に基づき、カラオケ関連機器を用いる管理著作物の再生(演奏)及び歌唱を差し止める請求権を有する。また、本件カラオケ関連機器は、著作権法一一二条二項の「もっぱら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に該当するので、原告は、同項の「廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置」として、被告に対し、本件カラオケ関連機器一式を本件店舗から撤去することを求める権利を有する。

5  損害賠償請求

原告は、被告が本件店舗において原告の許諾を得ることなく本件カラオケ関連機器を使って管理著作物を演奏し、原告の著作権を侵害したことにより、別紙使用料相当損害金一覧表記載のとおり、平成二年八月一日から平成一二年六月六日までの使用料相当損害金合計二六九万五二二〇円の損害を被った(著作権法第一一四条二項)。したがって、原告は被告に対して、右金員の支払を請求する権利を有する。

二  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求原因1ないし3の各事実はすべて認める。

なお、被告は、現在本件店舗での営業をしていない。

2  請求原因4は争う。

3  請求原因5については、以下の理由により争う。

(一) 原告の著作物使用料規程には、あらかじめ包括的使用許諾契約を締結する場合の外に一曲一回の使用料が支払われる場合を定めているが、一曲一回の使用料が支払われる場合の適用があるのは、あらかじめ利用者が包括的使用許諾契約を締結するか一曲一回の使用料を支払うかのいずれかを選択できる場合に後者を選択した場合であって、本件のように遡って過去の使用料相当の損害を請求される場合は、損害の算定は、包括的使用許諾契約を締結した場合に準じて行うべきである。原告主張の損害額は、原告と被告とが管理著作物の包括的使用許諾契約を締結した場合と比較してあまりにも高額であり不当である。

(二) そして、本件について、包括的使用許諾契約を締結した場合に準じて一か月三五〇〇円で計算すると、次のとおり、合計四二万八七八五円(遅延損害金を除く。)となる。

(1) 平成二年八月一日から平成九年三月三一日まで(八〇か月)

八〇か月×三五〇〇円×一・〇三=二八万八四〇〇円

(2) 平成九年四月一日から平成一二年五月三一日まで(三八か月)

三八か月×三五〇〇円×一・〇五=一三万九六五〇円

(3) 平成一二年六月一日から同月六日まで(六日)

(六日÷三〇日)×三五〇〇円×一・〇五=七三五円

第三当裁判所の判断

一  請求原因1ないし3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  証拠(乙一ないし三)によると、被告は、現在では、本件店舗における営業をしていないものと認められるが、証拠(乙一ないし三)と弁論の全趣旨によると、被告が本件店舗における営業をしなくなったのは、被告が、本件店舗におけるカラオケ演奏の禁止、本件カラオケ関連機器に対する執行官保管の仮処分命令を受け、その執行がされた後であると認められるから、被告には、原告の著作権を侵害する行為を行うおそれがあるというべきである。

そうすると、原告は、被告に対して、請求原因4記載の各請求権を有するというべきである。

三  請求原因1ないし3の各事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、故意又は過失によって原告の著作権を侵害したものと認められるから、被告は、原告に対して損害賠償責任を負うというべきである。

四  そこで、次に、原告が被った損害額について判断する。

1  証拠(甲三)と弁論の全趣旨によると、原告の管理著作物を利用する者が原告に対して支払うべき使用料は、原告が主務官庁である文化庁の認可を受けて定めた「著作物使用料規程」によるものとされている(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律第三条)こと、右規程によると、本件店舗のような社交場において管理著作物を演奏する場合の使用料は、包括的使用契約を結ばない場合には一曲一回の使用料によるものとされ(第二章第二節5「社交場における演奏等」)、使用料の額は、社交場の営業形態等により区分して定められていること、右規程に基づいて、本件店舗の営業形態等に照らして、本件店舗に係る管理著作物の使用料の額を算定すると、一曲一回の使用料が一一〇円となること、以上の事実が認められる。

被告は、原告と包括的使用許諾契約を締結していなかったのであるから、被告が原告に対して支払うべき使用料相当損害金の額は、右の一曲一回の使用料一一〇円に基づいて算定すべきである。

被告は、一曲一回の使用料の適用があるのは、あらかじめ利用者が包括的使用許諾契約を締結するか一曲一回の使用料を支払うか、いずれかを選択できる場合に後者を選択した場合であると主張するが、そのように解すべき根拠はない。また、被告は、一曲一回の使用料によって算定すると、包括的使用許諾契約を締結した場合と比較してあまりにも高額であり不当であるとも主張するが、包括的使用許諾契約を締結した場合には、一曲一回の使用料による場合に比べて使用料が低額になることは、使用料徴収の便宜等を考えると合理性があるというべきであり、金額の違いも不合理であるとまではいえない。したがって、被告の主張は採用することができない。

2  右1で述べたところに弁論の全趣旨を総合すると、本件店舗に係る使用料相当損害金は、別紙使用料相当損害金一覧表記載のとおりとなると認められる。

五  よって、原告の本訴各請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 岡口基一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例